「AIに同じ質問をしたのに、さっきと全然違う答えが返ってきた…もしかして壊れてる?」
あなたも一度は、そんな風に思ったことはありませんか?
例えば、明日に控えた大事なプレゼンテーション。少しでも緊張を和らげたくて、ChatGPTのようなAIにこう質問したとします。
「明日のプレゼンで緊張しないコツを3つ教えて」
するとAIは、「①しっかり準備すること、②深呼吸をすること、③聞いている人たちは味方だと思うこと」と、なるほど納得の答えを返してくれました。
でも、念のためにもう一度、全く同じ質問をコピペして聞いてみると、今度は「①何度も声に出してリハーサルすること、②背筋を伸ばして良い姿勢を保つこと、③最初の一言だけは完璧に覚えておくこと」といった、また違う、しかしこれもまた的確なアドバイスが返ってきたのです。
これって、AIが気まぐれだったり、調子が悪かったりするのでしょうか?
いいえ、実はこれこそが、AIが持つ「すごい能力」の証であり、私たちがAIと上手に付き合っていくための最大のヒントなんです。
今回は、なぜAIは毎回違う答えを出すのか、その不思議な仕組みを誰にでもわかるように、そして、その特性を活かしてAIをもっと便利なパートナーにする方法を、たっぷりご紹介します!
■AIは「マジメな電卓」とは違う?根本的な仕組みの違い
まず、私たちが昔から慣れ親しんでいるコンピューターと、AIの違いから考えてみましょう。
一番わかりやすい例は「電卓」です。
電卓に「2 + 3 =」と入力すれば、答えは必ず「5」になります。今日やっても、1年後にやっても、あなたがやっても、隣の人がやっても、答えは絶対に変わりません。これは、プログラムが「AとBが入力されたら、必ずCを出力する」という、カチッとしたルール通りに動いているからです。まるで、真面目で融通の利かない、でも絶対に間違えない優等生のようですね。
ところが、ChatGPTなどの「生成AI」と呼ばれるAIたちは、全く違う世界に生きています。
彼らは、この優等生とは少し違って、「アイデア豊富な相談相手」といった方がしっくりくるかもしれません。
彼らは、答えを一つだけ覚えているわけではないのです。
■AIの頭の中をのぞいてみよう!秘密は「言葉の連想ゲーム」
では、AIはどうやって答えを作り出しているのでしょうか?
専門的な言葉を使うと「確率」という話になるのですが、ここではもっとシンプルに「言葉の連想ゲーム」だと考えてみてください。
私たちが「今日の夕飯はカレーにしようかな。だって…」と話しかけられたら、続く言葉は何を想像しますか?
「…昨日、美味しいニンジンを買ったから」
「…テレビで特集しているのを見て、食べたくなったから」
「…子どもたちが大好きだから」
色々な可能性が頭に浮かびますよね。一つだけが正解、ということはありません。
AIもこれと全く同じです。
「明日のプレゼンで緊張しないコツは…」という言葉に続いて、AIの頭の中では、
「準備」という言葉が来る可能性が20%
「深呼吸」という言葉が来る可能性が15%
「リハーサル」という言葉が来る可能性が18%
…というように、膨大なデータの中から「次に来たら最も“らしい”言葉」の候補を、確率のサイコロを振るようにして選んでいるのです。
だから、質問するたびにサイコロの目が少しずつ変わって、違う単語が選ばれ、結果として毎回少しずつニュアンスの違う、あるいは全く違う切り口の答えが生まれるというわけです。
これはバグや故障ではなく、「たくさんの選択肢の中から、その都度ベストだと思うものを提案してくれる」という、AIの柔軟さや創造性の源泉なのです。
■AIの「性格」も変えられる?「温度設定」という不思議なスイッチ
このAIの「揺らぎ」や「創造性」の度合いは、「温度(Temperature)」という設定で調整することができます。これも、難しく考えずにイメージで捉えてみましょう。
温度が低い(0に近い)とき
イメージは「カチコチに凍った状態」や「超マジメモード」。AIは冒険をしなくなり、最も確率が高い、つまり一番「無難」で「教科書通り」の答えを選びやすくなります。例えば、「猫について教えて」と聞けば、「猫は哺乳綱ネコ科の動物で…」といった、辞書のような正確な答えが返ってくるでしょう。
温度が高い(1に近い)とき
イメージは「ポカポカ陽気でリラックスした状態」や「アイデアマンモード」。AIは確率の低い、ちょっと意外な言葉も積極的に選ぶようになります。よりクリエイティブで、ユニークな答えが出やすくなるのです。同じく「猫について教えて」と聞いても、「古代エジプトでは神として崇められていたんですよ」とか、「猫が喉をゴロゴロ鳴らすのは、実は自分を落ち着かせる効果もあるんです」といった、面白い豆知識や物語を語ってくれるかもしれません。
ただし、私たちが普段使っているChatGPTなどのサービスでは、この「温度」を自分でいじることはできません。開発している会社が、「多くの人にとって、ちょうどよく正確で、ちょうどよくクリエイティブ」という絶妙な温度に設定してくれているのです。
だから私たちは、特に何も設定しなくても、AIとの面白い対話を楽しむことができるんですね。
■さっそく体験!AIの「引き出しの多さ」を実感してみよう
このAIの面白い性質を、ぜひあなた自身で体験してみてください。
やり方は簡単。同じAIに、全く同じ質問を3〜5回ほど繰り返してみるだけです。
例えば、こんな質問はいかがでしょうか?
「ストレス解消法を3つ教えて」
「読書を習慣にするためのコツは?」
「チームのやる気を引き出す方法を教えて」
きっと、質問するたびにAIが違う「引き出し」から答えを持ってきてくれることに驚くはずです。
1回目は「運動、音楽、睡眠」といった王道の答えが返ってきたのに、2回目には「親しい友人と話す、自然の中で過ごす、美味しいものを食べる」といった人間関係や五感に訴える答えが、3回目には「瞑想する、部屋の掃除をする、感謝できることを3つ書き出す」といった、少し内面的なアプローチを教えてくれるかもしれません。
ほら、なんだかAIが本当に相談に乗ってくれているような気がしてきませんか?
■この「違い」を知るだけで、あなたのAI活用レベルが劇的に変わる!
AIが毎回違う答えを出すことを理解すると、AIとの付き合い方が大きく変わります。
- 「なんで?」というイライラが「次は何?」というワクワクに変わる
「また違う答えだ!」と混乱するかわりに、「へぇ、今回はそんな視点があるんだ!面白いな」と、AIとの対話そのものを楽しめるようになります。 - 最高の答えを「引き出せる」ようになる
一度目の答えがイマイチ気に入らなかったとしても、ガッカリする必要はありません。それはAIが持つ無数のアイデアの、ほんの一つに過ぎないのです。
「もう一回!」と同じ質問をするだけで、別の切り口の答えが手に入ります。これを繰り返せば、まるで壁打ちのように、多様な視点からアイデアを集めることができるのです。企画に行き詰まった時、何度もAIに相談すれば、自分一人では思いつかなかったような突破口が見つかるかもしれません。 - AIは「検索エンジン」から「頼れる相棒」になる
AIを「一つの正解を教えてくれる完璧な機械」と考えるのをやめてみましょう。AIはむしろ、「発想を広げてくれる、知識豊富な創造的パートナー」です。あなたの質問に対して、色々な可能性を提示してくれる頼もしい相棒として捉えることで、使い方が無限に広がります。 - 答えの「形」をコントロールしたくなったら
毎回違う答えが出るのは面白いけれど、レポート作成などで「同じ形式で答えてほしい」という時もありますよね。そんな時は、指示をより具体的にしてみましょう。
「箇条書きで3つ教えて」「小学生にもわかるように説明して」「メリットとデメリットを対比する表形式でまとめて」のように、答えの「型」を指定してあげると、AIはそれに沿った形で、ある程度一貫した答えを返してくれるようになります。
■まとめ:AIとの対話をもっと楽しもう!
かつてのコンピューターは「正確さ」が命でした。しかし、生成AIの魅力は、その「多様性」と「創造性」にあります。
AIが毎回違う答えを出すのは、決して欠点ではありません。それは、AIが私たち人間のように、たくさんの可能性の中から言葉を選び、新しいアイデアを生み出そうとしている証拠なのです。
AIは、たった一つの絶対的な正解を持っているわけではありません。その代わり、あなたのすぐ隣で、たくさんの知識とアイデアの引き出しを開けながら、「こんなのはどう?」「あんな視点もあるよ」と、一緒に考えてくれる最高のパートナーになってくれます。
次にAIと話すときは、ぜひこの「確率の世界」を意識してみてください。そして、同じ質問を何度か投げかけて、その奥深い世界の探検を楽しんでみてはいかがでしょうか。きっと、これまで以上にAIのことが好きになるはずです。