地域DX推進の最前線!ITコーディネーターと金融機関、そして最新AIの役割

地域におけるデジタル変革(DX)の推進は、経済発展とウェルビーイングの向上を目指す上で非常に重要です。ITコーディネーター協会主催の「スプリングWEBカンファレンス」では、地域DX推進ラボの立ち上げ方法、ITコーディネーターと金融機関の連携、そして生成AI導入ガイドラインといった多岐にわたるテーマが議論されました。


目次

地域DX推進ラボ:地域を活性化する取り組み

地域DX推進ラボは、地域にいる行政や自治体、地域企業、金融機関、その他の支援機関といった複数のステークホルダーが連携し、地域の経済発展とウェルビーイング向上を目指す取り組みです。経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が選定・支援しており、選定されたラボには、有識者の派遣支援や地域間の交流機会の提供などのメリットがあります。現在、全国に43のラボが選定されています

ラボの事務局は、43ラボのうち31ラボが自治体、10ラボが行政の外郭団体を含む関連団体が務めています。主な取り組み事項としては、企業のDX支援、人材育成、普及啓発の3つが挙げられます。

【ラボ運営の課題とヒント】 ラボの立ち上げと運営には、いくつかの共通課題が見られます。

  • プレイヤーの確保と持続性: 地域におけるITベンダーやコンサルタントといった支援者をいかに巻き込むかが課題です。ボランティア精神だけでは限界があるため、支援者への対価や収益化の仕組み(例:補助金やマーケットの創出)を構築することが重要とされています。
  • 共通のビジョン: 参加機関が同じ目標を共有し、ラボとしてのビジョンを明確にすることが、活動を継続させる上で不可欠です。
  • 事例の共有と学び: IPAは各ラボの取り組み事例をデータベースで提供しており、他のラボの成功事例から学ぶ機会(情報共有会など)が設けられています。例えば、北海道の釧路のラボは、行政ではなくITコーディネーター組織が中心となり、会費を集めて運営する特異な成功事例として紹介されました。これは、地域の人々の「自分たちで何とかしたい」という強い思いが原動力となっていることが強調されています。

地域で既に何らかのデジタル化推進の取り組みが行われている場合、それを「ラボ」という形で申請し、既存の活動を可視化・強化することが、今後の立ち上げのヒントとなるでしょう。IPAは各県に1つ以上のラボを設置することを目指しており、ITコーディネーターの皆様への協力を呼びかけています。

ITコーディネーターと金融機関の連携強化

地域DX推進において、ITコーディネーターは重要な役割を担っています。特に注目すべきは、金融機関におけるITコーディネーター資格取得者の急増です。

  • 金融機関におけるITコーディネーターの増加: 経済産業省のDX支援ガイダンスにおいて、中小企業のデジタル化・DX支援における金融機関への期待が高まっていることが背景にあります。全国の金融機関がDX支援サービスを展開するにあたり、共通の指針や支援プロセスとしてITコーディネーターのプロセスガイドラインが適していると認識されており、資格取得の動きが加速しています。福岡フィナンシャルグループでは、2019年からITコーディネーター資格取得に取り組み、現在専門チームの24名中22名が資格を保有しています。
  • 金融機関連絡会コミュニティ: ITコーディネーター協会は、今年7月に金融機関連絡会コミュニティを発足させる準備を進めています。これは、銀行員ITコーディネーターが抱える「専門人材の継続的な育成」や「資格保有者の活用」「地域ITコーディネーターとの連携」といった共通の課題を解決し、ノウハウや情報の共有、メンバー間の交流を促進することを目的としています。このコミュニティを通じて、銀行が地域DX支援の中核となれるような存在を目指しています。

金融機関は、地域の中小企業との接点が多く、地域の事業者へのリーチにおいて非常に重要なプレイヤーと認識されています。ITコーディネーター組織と金融機関の連携は、地域DX推進の成功に不可欠な要素です。

生成AI導入ガイドライン:中小企業のAI活用を支援

ITコーディネーター協会では、「生成AI研究会」を立ち上げ、中小企業向けの生成AI導入ガイドラインの策定を進めています。

  • 目的とターゲット: このガイドラインは、中堅・中小企業、さらに小規模事業者が生成AI(およびその他のAI)を活用して、業務効率化と価値創造を進めるための実践的なガイドとなることを目指しています。ITコーディネーターがメインの読者ですが、AIに詳しくない経営者やDX推進担当者にも分かりやすい内容とされます。
  • 内容のポイント:
    • 実践性: 具体的な導入手順や、業界別の活用シナリオを盛り込む予定です.
    • リスク管理とガバナンス: AI利用における企業情報の漏洩や安全性に関する不安を解消するため、経済産業省や総務省が発行するAI事業者ガイドライン、契約チェックリストなどを活用し、リスク管理・ガバナンスに関する情報を提供します。
    • PGL 4.0との連携: ITコーディネータープロセスガイドライン(PGL)4.0の「サイクル型」の進め方がAI導入と非常に相性が良いと考えており、そのマインドをガイドラインに組み込む予定です。
  • 公開と更新: ガイドラインはウェブサイトでの公開を前提とし、定期的に更新される「ライブドキュメント」形式となります。これはAI技術の進化が非常に速いため、常に最新の情報を反映させるためです。
  • 今後の展開: ガイドライン公開後は、各地域のITコーディネーター組織が中心となり、生成AI活用交流会を立ち上げ、情報交換やフィードバックを通じてガイドラインをさらに発展させていきます。将来的には、地域の導入事例を収集し、事例集をガイドラインに含めることも検討されています。

このように、地域DX推進は、多様なステークホルダーが連携し、課題を乗り越えながら進められています。ITコーディネーターは、その中心的な役割を担い、金融機関との連携や最新技術であるAIの普及を通じて、地域経済の活性化に貢献していくことが期待されています。

参考動画:ITコーディネータチャネル公式チャネル:025/5/16開催「スプリングWEBカンファレンス」-後編-

概略(「スプリングWEBカンファレンス」-後編- ブリーフィング資料)

このブリーフィング資料は、2025年5月16日開催の「スプリングWEBカンファレンス」-後編-の要点をまとめました。

  1. 地域DX推進ラボの立ち上げ方法について(パネルディスカッション)
    主要テーマと重要事項
    地域DX推進ラボの概要と目的
    地域DX推進ラボは、地域における行政、企業、金融機関、支援機関など複数のステークホルダーが連携し、地域の経済発展とウェルビーイングの向上を目指す取り組み。
    経済産業省とIPAが選定し、有識者派遣や広域交流機会の提供などの支援を行っている。
    現在、全国に43ラボが選定されており、そのうち31ラボが自治体を事務局としている。
    主な取り組みは、「企業のDX支援」「人材育成」「普及啓発」の3点。
    IPAは、各ラボの取り組み事例を「電ジ例データベース」で提供している。
    ラボの募集は随時行っており、IPAのウェブサイトで情報公開される。
    茨城県DX推進ラボの事例(ITC茨城の役割)
    ITC茨城は、茨城県DX推進ラボの構成機関として活動。
    ITC茨城は2002年設立(NPO法人化は2006年)、個人会員37名、団体会員3機関で構成。
    活動の3本柱は「事業DX推進(売上拡大)」「デジタル化推進(IT化)」「セキュリティ(ビジネスリスク軽減)」。近年は自治体からの要請で「地域のデジタル化支援」も開始。
    茨城県DX推進ラボは、DXの認知度や興味の度合いに応じた階層別プログラム(「DXを知らない/興味がない層」から「新ビジネスにチャレンジしたい層」まで)を提供し、企業をDXの次のステージへ押し上げることを目指している。
    ITC茨城は、この中で「茨城DXコミュニティ」を形成し、DXセミナー、研修会、計画策定、実践までを支援している。
    大久保氏は、ITC組織がラボに参画する動機として「使命感」と「支援者がビジネスとして活動できる場」の必要性を強調。「支援者も増やすような、そこにお金を持ってくるのかマーケット持ってくるのかわかんないですけど、そういうものが必要なんじゃないのかな」と述べている。
    堺DX推進ラボの事例(自治体主導と課題)
    堺市は、大阪府で人口・面積が2番目の政令指定都市で製造業が盛ん。AIデータセンターや太陽電池工場など、産業構造の変革期を迎えている。
    堺市が目指す都市像は「未来を創るイノベーティブ都市」であり、DXを通じてその具体化に取り組んでいる。
    堺DX推進ラボは、令和5年10月に第2弾地域DX推進ラボとして選定。コンセプトは「得意分野を持ち寄り、地域ぐるみでDXを推進し、地域全体の生産性や価値を向上させること」。
    立ち上げ当初の課題は「仲間集め」。現在は17機関が参加しており、公的支援機関と金融機関が中心メンバー。堺市が事務局としてハブ機能を担う。
    「堺DX診断」 という無料のWebツールを開発し、事業者のデジタル化現状把握、コミュニケーションツール、支援メニューの入口として活用。行政側も施策立案の貴重なバックデータとして活用。
    ラボの活動として勉強会(DX推進ガイダンス)、個別相談会、各種セミナーを企画・実施。
    今後の課題として、事務局の行政が参加機関に対して「ありがとうだけじゃなく、何かメリットになるフィードバック」が必要だと認識。
    また、地域内の新たな力、特に「地域金融機関」や「ITコーディネーター」「地域ベンダー」といった、DX支援の主治医としての役割が期待されるプレイヤーとの連携強化が課題。坂本氏は「我々の堺DX推進ラボではまだちょっと連携がうまく測れてない」と現状を述べる。
    地域DX推進ラボの課題と成功のヒント
    プレイヤーのマネタイズとインセンティブ: 大久保氏、佐藤氏ともに、DX支援者がボランティアではなく、ビジネスとして活動できる対価や枠組みの必要性を指摘。行政が補助金の枠組みを作ることも一案。
    枠組みの多様性: 全国のラボは様々な形で運営されており、自治体が事務局のところ、行政の外郭団体、大学、市民団体が事務局のところもある。
    事例共有と情報交換: IPAは月1回情報共有会を開催しており、各ラボの成功事例を学ぶ機会がある。堺市も他ラボの事例を視察している。
    ラボの中心人物(キーパーソン)の存在: 佐藤氏は「ラボ活動の一番のポイントはそこにいる人なのだ」と述べ、釧路のラボを例に挙げている。釧路は行政ではなくITC北海道(社団法人化)が中心となり、会費制で運営。地域でDX推進の「思い」があり、後からラボの仕組みを活用した例。
    組織化の重要性: ITC茨城の事例でも、個人での活動から組織化することで、自治体や経済団体との連携が拡大し、頼られる存在になっている。
    地域金融機関との連携: 堺市は「地域で事業者にどうリーチするか」を考えた時、「一番身近な存在」として金融機関の力を重要視。金融機関が共通ツール(堺DX診断)を活用して連携を深めている。
    共通言語化の重要性: 坂本氏は、DXの解釈が多様であるため、ラボとして「目指すDXはこうである」という共通認識を仲間と共有することが大事だと強調。共通ツール(堺DX診断)はその一助となる。
    IPAからのメッセージ: 佐藤氏は「各県1ラボ以上」を目指しており、ITコーディネーターに対し、地元にラボがあれば参画を、なければ行政に働きかけ、ラボ設立を提案してほしいと呼びかける。IPAは情報提供やアドバイスで支援する。
    立ち上げのヒント: ゼロからではなく、地域で既にデジタル化推進に取り組んでいる活動を「ラボ」という形にすることで、地域の人々に分かりやすく見せるというアプローチ。
  2. 金融機関連絡会コミュニティの活動について
    登壇者
    井川 浩司氏 (株式会社福岡フィナンシャルグループ DX推進本部本部長、ITコーディネーター協会理事)
    主要テーマと重要事項
    金融機関におけるITコーディネーターの重要性
    経済産業省の「DX支援ガイダンス」により、中小企業のデジタル化・DX支援における金融機関への期待が高まっている。
    全国の地域金融機関がDX支援サービスを展開し始めており、同時にデジタル人材育成のニーズも高まっている。
    多くの金融機関がITコーディネーター資格に着目し、その資格取得が加速している。
    福岡フィナンシャルグループでは、2019年からデジタル化支援サービスを開始。ITコーディネーターの「プロセスガイドラインの考え方」を共通の指針として採用。
    グループ内の専門チームでは24名中22名が資格を保有。
    銀行グループ全体でのITコーディネーター新規登録者数は年々増加し、2023年度は年間100名を超えた。
    一方で、2022年以降は資格の失効者数も増加傾向にあり、業務での活用方法、資格管理、継続性などに課題が見られる。
    金融機関におけるITコーディネーター活用の課題
    ITコーディネーター活用の意義の置き方
    人材育成方針における活用方法
    地域のITコーディネーターとの連携の円滑化
    専門人材の継続的な育成
    資格保有者の能力を活かしきれていない問題
    業務貢献度の評価の難しさ
    企業支援と銀行収益の両立の難しさ
    金融機関連絡会コミュニティの目的とメリット
    ITコーディネーター協会内に「金融機関連絡会」を2024年7月に発足予定。
    目的は、DX支援ガイダンスで示されるような「有機的な連携」の実現。特に、銀行グループ、独立系ITコーディネーター、企業内ITベンダー内のITコーディネーターとの連携を重視。
    メリット:ノウハウ共有: 各銀行が培ったノウハウを共有し、相互に成長を促す。
    情報収集: 支援事例、地域ITCとの連携、人材育成実績などの情報を収集。
    メンバー間の交流: 同じITコーディネーターとしての共通の価値観を持つ仲間との交流を通じて、各銀行の支援の底上げと地域経済活性化に貢献。
    協会との連携: ITコーディネーター協会のコンテンツ、ネットワーク、研修制度を活用し、支援サービスの進化と人材育成を図る。
    金融機関連絡会コミュニティの活動計画
    2024年2月にプレイベントを実施し、共通の課題感を共有(100名超の金融機関ITコーディネーターが参加)。
    ステップ1: 参加者募集 – 既に協会のウェブサイトで募集開始(金融機関の役職員・関連グループ社員に限定)。
    ステップ2: 設立総会 – 2024年7月にキックオフイベントを予定。
    ステップ3: 定例会 – 年3回程度(総会含め年4回)の開催を目標。課題共有、ワークショップ、有識者セミナー、地域ごとの開催、銀行員以外のITコーディネーターとの交流なども検討。
    井川氏は、金融機関がITコーディネーター活動を通じて地域のDX支援に力を入れていることを強調し、地域のITコーディネーターにも銀行との有機的な連携を呼びかけている。
  3. 中小企業向け生成AI導入ガイドラインについて
    登壇者
    井上 健士氏 (株式会社美代表取締役、ITコーディネーター協会 生成AI研究会リーダー)
    主要テーマと重要事項
    生成AI研究会の背景と目的
    AI技術、特に生成AIの著しい進歩を受け、ITコーディネーターとして中小企業が生成AIを活用した業務効率化と価値創出を進めるための「実践的なガイドライン」の整備を目指し、生成AI研究会が立ち上げられた。
    2024年2月1日のITコーディネーターの日のイベントでプレイベントを実施。
    研究会は現在、井上氏と関高幸氏(ITC協会のSNS研究会所属)の少人数体制で進められている。
    生成AI導入ガイドラインの概要
    目的: 中堅・中小企業(小規模事業者を含む)が生成AIを中心に、認識系・予測系AIも活用しながら業務効率化と価値創出を進めるための実践的なガイドライン提供。
    対象読者: ITコーディネーターがメインだが、経営者や企業のDX推進担当者にも読みやすいように、AIに詳しくない方でも基本的な概念から導入・運用まで分かりやすく整理する。
    内容:生成AIを主軸としつつ、幅広いAI技術をカバー。
    具体的な導入手順や活用シナリオ(業界別)など、実践的な内容を目指す。
    リスク管理とガバナンスを重視:「大丈夫なのですか」「安全なのですか」「企業の情報は漏れませんか」といった企業の不安に応える。経済産業省や総務省の「AI事業者ガイドライン」や経済産業省の「AIに関する契約のチェックリスト」も活用し、紹介する。
    継続的な改善プロセスを組み込む。
    PGL4.0(プロセスガイドライン4.0)との親和性: PGL4.0のサイクル型のアプローチがAI導入と非常に相性が良いと認識しており、PGLのエッセンスをガイドラインに極力組み込む。特に、POC(概念実証)を通じて段階的に進めるアプローチを重視。
    目次(案)
    第1章: AIの概要
    第2章: AI活用方法と導入の可能性(PGLの変革認識に相当)
    第3章: 経営へのAI導入進め方(PGLのデジタル経営戦略に相当)
    第4章: AI活用のリスクとガバナンス(PGLのデジタル経営戦略に相当)
    第5章: AI導入の具体的な手順(PGLの実行サイクルP3~P6に相当)
    第6章: デジタル経営の実践(ITコーディネーターがAI導入支援を行う上での指針)
    公開方法とスケジュール
    フェーズ1: 2024年9月頃を目安に初版を公開。
    叩き台となるガイドを作成し、ウェブサイトでの公開を前提としている。
    AI技術の進化が速いため、「ライブドキュメント」形式で定期的に更新していく方針。
    フェーズ2: 各「届出組織」(ITコーディネーターの地域組織)が中心となる。
    各組織が生成AI研究会のようなチームを作り、組織間での情報交換や活用交流会を立ち上げる。
    作成されたガイドをベースにしつつ、各地域のフィードバックや実践知見をガイドラインの更新に反映していく。
    フェーズ2以降は、聴講者であるITコーディネーターの積極的な参画を呼びかけている。
    今後の展開
    ガイドラインの継続的な更新(新技術の取り込み、フィードバックの反映)。
    生成AI活用交流会の組成と発展(「誰に話したらいいんだろう」となった時に「ITコーディネーターだろう」と言われるような存在を目指す)。
    導入事例集の作成:各届出組織からの導入事例を収集し、ガイドラインに含めてさらに充実させる。
地域DX推進の最前線!ITコーディネーターと金融機関、そして最新AIの役割

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この記事を書いた人

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