先日、株式会社アイ・コネクトの大久保賢二さんの「DX支援者育成講座」を受講しました。DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を日々耳にしますが、「結局何が大事なの?」「どう進めるの?」といった疑問に、具体的な支援のポイントと共に深く切り込む、大変学びの多い講座でした。今回は、この講座で得られた「真のDX」の本質と、それを支援するためのノウハウについてご紹介したいと思います。
DXとデジタル化、その決定的な違いとは?
まず、この講座で最も強調されていたのが、**「DXとデジタル化は明確に違う」**という点です。
経済産業省の定義によれば、DXとは「企業がデータとデジタル技術を活用し、顧客や社会のニーズに基づいて、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。
一方で、デジタル化は主に「業務の課題解決」を目的としています。例えば、二度手間作業の解消やミスの削減、在庫の適正化といった「マイナスの状態をゼロに戻す、あるいは通常の状態にする」ことが目的です.
つまり、デジタル化は「課題解決型アプローチ」であるのに対し、DXは「目標達成型アプローチ」であり、**「競争上の優位性を確立する」**という、より高い目的を目指します。資料でも「デジタル化からやらないとDXは実現しないが、デジタル化だけやっていてもDXは実現しない」と強調されており、この違いを正しく理解することが「真のDX」への第一歩だと強く感じました。
DX実践までの4つのステージと支援のポイント
企業がDXを実践するまでには、0から4までの段階があります。この講座では、各ステージで企業が抱える課題と、それに対するDX支援者の具体的な支援方法が示されました。
- ステージ0: DXを理解していない
- 課題: 誤って理解している、イメージが湧かない.
- 支援: DXの重要性を広く訴求し、誤った説明をしない.
- ステージ1: DXを正しく理解した
- 課題: DX実践後のイメージが湧かない.
- 支援: DX勉強会やセミナーを開催し、DX実践企業の事例紹介を通じて、企業がDX後の具体的な姿をイメージできるように支援することが重要です。経営者が「うちの会社もなれるんだ!」とワクワクするようなイメージを持たせることが最初の大きな一歩となります。
- ステージ2: DX推進計画を立てた
- 課題: 計画の進め方がわからない、ファシリテーターがいない.
- 支援: DX推進計画書の策定支援を行います。これはDXという航海を進むための羅針盤のようなものです。
- ステージ3: DX推進計画を進めている
- 課題: 計画通りに進められない、経営資源を充てられない.
- 支援: DXプロジェクト伴走支援、社内デジタル人材育成、IT導入費用補助など、多岐にわたる支援策を準備します.
- ステージ4: DXを実践している
- 競争上優位性があるビジネスを展開し、増収・増益の状況にある段階です.
DX推進計画書が「真のDX」の鍵
特に印象的だったのは、ステージ2における「DX推進計画書」の作成支援です。この計画書は、経営理念の再確認から始まり、競争上の優位性を持つ事業内容、DXシステムの構想、現状課題、実施項目、スケジュール、体制など、9つの具体的な項目で構成されています。これらを検討することで、DXが全社的な包括的取り組みであることがよくわかります。
中でも核となるのが、「DX構想(目指す姿)」の検討です。これは、現在の事業価値(As-Is)を分析した上で、顧客自身が気づいていない「諦めているニーズ」「潜んでいるニーズ」「今後のニーズ」といった潜在ニーズを掘り起こし、それに応える「未来の新しい事業価値(To-Be)」を描くというものです。
具体的な事例として、車両ユニット部品メーカーの例が紹介されました。
- As-Is(現状): 「お客様の要望に柔軟に対応できる企業」(高い品質、短納期、価格低減、多品種対応)。
- To-Be(目指す姿): 「車の利用者の悩みに応える企業」。これは、古い型式の修理依頼があっても部品情報が曖昧で対応しきれていないという潜在ニーズに対し、ユニット部品に関する情報を管理し、問い合わせ対応や提案ができる仕組みを構築することで実現されます。
このように、単なる業務効率化ではなく、顧客の潜在ニーズに応える新たな事業価値を創出し、ビジネスモデルそのものを変革することが「真のDX」であると、この事例を通じて深く理解することができました。
DX支援者に求められる心構えと地域全体での取り組み
講座では、DX支援者に求められる心構えについても言及されました。
- 「伴走」ではなく「牽引」の役割が多いこと。
- 支援者自身が、支援企業のDX実践後の姿を具体的に想像できること。
- 常にデジタル活用を意識すること。
- そして、計画を確実に実行するために、企業内にDX管理者を育成することの重要性も強調されました。
さらに、支援は個別の企業だけでなく、地域全体でDXを推進する視点も不可欠だと示されました。
- DX支援機関同士が「主治医」として有機的に連携するネットワークを構築すること。茨城県の「茨城県DX推進ラボ」の事例では、ITコーディネータ茨城、金融機関、大学、地方公共団体などが連携し、ステージに応じた切れ目のない支援策を提供していることが紹介されました。
- DX支援者の増員・育成もセットで考えること。
- セミナー参加企業が最終的にどれだけDX実践企業になるかという**「コンバージョンレート」を意識して、支援の数を設計する**という現実的な視点も学びました。
まとめ:「競争上の優位性」を確立する変革こそがDX
この講座を通じて、DXは単なるデジタルツールの導入や業務効率化にとどまらず、**「データとデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立する」**という本質的な意味を深く理解することができました。
私たちの周りにある「DX」と呼ばれる取り組みが、本当に「競争上の優位性」を目指す変革なのか、それとも効率化がメインのデジタル化に近いものなのか。この違いを意識することで、次の一歩が見えてくるはずです。今回の学びを活かし、私も「真のDX」を支援できるプロフェッショナルを目指していきたいと思います。
サクっと『耳聞創知(じぶんそうち)』で要点を把握できるようにしました!
YouTubeタイトルとハッシュタグ (99文字)
タイトル: 【DXの本質】中小企業を「真のDX」へ導く!デジタル化との違い、支援の全貌を徹底解説 #DX #デジタル変革 #中小企業DX #競争優位性
YouTube説明 (4800文字程度)
こんにちは!この動画では、株式会社アイ・コネクトの大久保賢二さんの「DX支援者育成講座」資料を元に、DXの本質とその支援方法について深掘りします。日々耳にする「DX」という言葉ですが、「結局何が大事なの?」「どう進めるべき?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?本動画では、単なるデジタルツールの導入や業務効率化にとどまらない「真のDX」とは何か、そしてそれをどう実現し、企業を牽引していくべきか、その支援のポイントを一緒に探っていきましょう。
この講座の目的は、中小企業のDXを推進するDX支援者として、DXの本質を正しく理解し、企業のビジネスモデルの変革や新たな事業価値創出につながる「真のDX」を推進支援するためのプロセスやノウハウを学ぶことです。
1. DXとデジタル化の決定的な違い
まず、最も重要なポイントは、DXとデジタル化の違いを明確に理解することです。資料でも強く強調されている通り、これらは全く異なる目的を持っています。
- デジタル化(Digitalization):
- 目的: 主に業務の「課題解決」です。二度手間作業が多い、作業間違いがある、余剰在庫が多いといった「マイナスの状態」を、作業効率が良い、間違いがない、在庫が適正化されているといった「通常の状態」に戻すこと、つまり「マイナスをゼロにする」取り組みです。
- アプローチ: 課題解決型アプローチ。
- DX(Digital Transformation / デジタル変革):
- 目的: 企業がデータとデジタル技術を活用し、顧客や社会のニーズに基づいて、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することです。これは「通常の状態」から「プラスの状態」、例えば「業界の常識を覆すスピードで納品する」「今後を先読みし、今までにないサービスを提供する」といった新たな価値を生み出す「変革」を指します。
- アプローチ: 目標達成型アプローチ。
資料では「『デジタル化』を実施していても『DX』は実現しない。しかし、『デジタル化』からやらなければ『DX』は実現しない」と述べられており、デジタル化はDX実現のための通過点であり、目的ではないことが明確にされています。
2. DX実践までの4つのステージと支援のポイント
企業がDXを実践するまでには、以下の4つのステージが存在します。
- ステージ0: DXを理解していない
- 企業側の課題: 誤って理解している、イメージが湧かない。
- 支援側の課題: DXの重要性を広く訴求できていない、誤って説明している。
- ステージ1: DXを正しく理解した
- 企業側の状況: デジタル技術は活用しているが、業務効率向上に留まっている。
- 支援内容: DX勉強会やDXセミナーを通じて、DXの定義や実践事例を説明します。特に重要なのは、どんなデジタルツールを導入したかではなく、どのような変革をしたかを伝え、企業がDX実践後の具体的なイメージを持てるように支援することです。
- ステージ2: DX推進計画を立てた
- 企業側の状況: DX実践に向けた仕組みを作成中、デジタル化による課題解決実践中。
- 支援内容: DX推進計画書策定支援。企業側が中心となって、DX実践企業になるための計画書を作成します。この計画書は、DX推進の羅針盤となる非常に重要なステップです。
- ステージ3: DX推進計画を進めている
- 企業側の課題: DX計画通りに進められない、様々な専門知識がない、計画遂行の文化がない。
- 支援内容: DX推進計画遂行の各種支援(プロジェクト伴走支援、社内デジタル人材育成、IT導入費用補助、ベンダーマッチング、業務改善コンサル、特許相談、海外相談など多方面の支援)。
- ステージ4: DXを実践している
- 企業側の状況: 競争上優位性があるビジネスを展開中であり、増収・増益の状況。
3. DX推進計画書の具体的な内容 (9つのステップ)
ステージ2で作成するDX推進計画書は、以下の9つのステップで構成されます。
- 経営理念、ミッション確認: プロジェクトメンバー全員で企業の存在意義を再確認し、DXに取り組む目的を共有します。
- DX構想(目指す姿)の検討:
- As-Is分析: 現在の事業価値を「お客様」「ニーズ」「ノウハウ・強み」の観点から認識します。
- To-Be分析: 今後の新たな事業を検討します。ここで特に重要なのは、顧客自身も気づいていないかもしれない「諦めているニーズ」「潜んでいるニーズ」「今後のニーズ」を捉え、それに応える仕組みを考えることです。これにより、他社には真似できない競争上の優位性をどう作るかが問われます。
- 事例: 車両ユニット部品製造業の例では、As-Isが「お客様の要望に柔軟に対応できる企業」であったのに対し、To-Beでは、古い型式の修理依頼という潜在ニーズに応え、ユニット部品に関する情報管理と提案の仕組みを構築することで、「車の利用者の悩みに応える企業」へと変革する姿が描かれました。これは単なる効率化ではなく、ビジネスモデルの変革、まさにDXの好例です。
- DX構想の裏付け: DX構想(新たな事業)が「儲かるか?」という視点で、市場調査や顧客ヒアリングに基づき、売上が上がるストーリーを検討します。
- 目標値の設定: DX構想実現のためのKPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)を設定します。KGIは売上を基本に、短期的・中長期的な目標値を具体的に設定します。
- DXシステム構成検討: 目指す姿を実現するDXシステム構成を検討します。デジタル技術や活用するデータを具体化し、DX支援者も記載補助を行うことが推奨されています。
- 現状分析: DX実践企業としての現状(DX推進指標相当の診断ツール使用)と、目指す姿を実現する上での現状を分析し、ギャップ(出来ていること、出来ていないこと)を抽出します。
- 実施項目の決定: 現状分析で抽出した「出来ていないこと」の対策を実施項目として抽出し、優先順位を決めます。単に出来ていないことを列挙するのではなく、その原因を深掘りし、対策を実施項目として抽出することが重要です。実施項目は「効果の質(競争力強化/生産性向上)」と「実行難易度(容易/困難)」で整理します。
- スケジュール検討: 決定した実施項目について、ガントチャート形式でスケジュールを立てます。優先順位を参考にしながら、短期的(月単位)と中長期的(四半期・半年単位)な計画を策定します。
- 体制検討: DX推進計画を遂行する体制を明確にし、DX責任者、DX管理者、DXメンバー、そして外部支援者の役割を記載します。DX管理者の育成も重要なポイントです。
これらの計画を確実に遂行するためには、外部支援者の定期的な進捗会議への関与や、経営会議での進捗報告といった「計画を必ず遂行するための仕組み」を全員で話し合いながら決めることが重要です。また、策定したDX推進計画書は、社内全体に向けて発表し、全社を巻き込む宣言とすることが推奨されています。
4. DX支援者の心構え
DX支援者には、以下のような心構えが求められます。
- 企業がDX実践後の姿を自ら想像する。
- 支援企業の顧客、エンドユーザー、その先の社会を深く把握する。
- 単なる**「伴走」ではなく、「牽引」の役割が多い**ことを意識する。
- 常にデジタル活用を意識し、ITコーディネータとしての強みを活かす。
- DX推進計画を遂行するための社内DX管理者を育成する。
5. 地域でDX事業を進めるポイント
個社支援だけでなく、地域全体でDXを推進することも非常に重要です。
- DX実践企業となるまでの「切れ目のない支援策」を準備する。各ステージに応じた多様な支援メニュー(DX勉強会、セミナー、計画策定支援、各種遂行支援など)を網羅的に用意し、通年で何度も開催することが肝要です。
- DX支援機関ネットワークを構築する。支援機関同士が「強み・弱みの相互補完」と「情報共有」を意識して有機的に連携することが重要です。経済産業省の「DX支援ガイダンス」にもあるように、「主治医」としての役割を担う支援機関が主体性をもって連携し、「地域DX推進ラボ」のような組織が地域のファシリテーターとして積極的に活動することが期待されます。茨城県DX推進ラボの取り組みは、その良い例です。
- DX支援者の増員・育成をセットで考える。DX実践企業を増やすためには、支援者のスキルアップと増員が不可欠であり、企業への支援だけでなく、支援者への支援も必要です。
- 個社支援だけでなく、業界支援を検討する。個社でのDX成果(売上拡大、生産性向上)だけでなく、業界全体での連携深化、サプライチェーン改革、地域全体での税収増加、人材流入、地域ブランド向上など、地域成果や業界成果へと繋がる視点が重要です。
- コンバージョンレートを意識して支援数を考える。セミナー参加企業が最終的にどれだけDX実践企業になるか、その割合(コンバージョンレート)を意識して、支援の量を設計することが、限られたリソースを有効活用する上で非常に現実的かつ重要な視点です。
- 「DX実践企業が存在する地域は経済発展する」という仮説を信じる。DX成功企業は新たな価値を創出し、地域における先進的なモデルとなり、それが他の企業にも波及して地域経済全体の発展に貢献すると考えられています。
この講座では、地域で活動する支援機関・銀行・システムベンダーなどの方々やITC(ITコーディネータ)組織がDX事業を通じて活性化されることも期待されています。
まとめ
DXは単なるデジタル化ではなく、企業が激しいビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を最大限に活用して、顧客や社会のニーズに基づいた「競争上の優位性を確立するためのビジネスモデルの変革」です。この動画で解説したDXの本質、そしてそれをどう支援していくかという視点が、皆様のDXへの理解を深める一助となれば幸いです。
ぜひ、皆さんの身の回りにある「DX」と呼ばれる取り組みが、本当に競争優位性を目指す変革なのか、それとも効率化がメインのデジタル化に近いものなのか、この機会に改めて考えてみてください。
ご視聴ありがとうございました!