「DX、DXって聞くけど、うちには関係ないかな」「難しそうだし、何から始めたらいいか分からない…」
もしあなたが中小企業の経営者で、そう感じているなら、ちょっとだけお時間をください。今回は、国が中小企業のDX推進を後押しする「DX認定」という制度について、分かりやすくシンプルにご紹介します。
「DX認定」って、そもそも何?
経済産業省が定めた「デジタルガバナンス・コード」という、企業がDXを推進するための指針があります。この指針の基本的な項目に対応している企業を、国が法律に基づいて正式に認定する制度が「DX認定」です。
ここで一番大切なポイントは、「DXが完了している」企業を認定する制度ではない、ということです。
「DXにこれから立ち向かう準備ができていますよ」という企業が認定されるのです。
なぜDX認定が中小企業経営者にとって役立つの?
DX推進は、成果が出るまでに時間がかかることがあります。一生懸命取り組んでいても、「本当にこのままで大丈夫かな…」と不安になったり、社内の雰囲気が停滞したりすることもあるかもしれません。まさに、経営者が「孤独」を感じやすい瞬間です。
そんな時、DX認定はあなたの背中を力強く押してくれる「起爆剤」になります。
- 国から「お墨付き」をもらえる! DX認定を取得することは、「あなたの会社のDXへの取り組み方は、国の基準に沿っていて正しいですよ」という証明になります。これにより、経営者は自信を持ってDX推進を続けることができます。
- 社員の意識改革につながる! 国から認定を受けたことを社内外に発信することで、社員にも「自分たちの会社は国も認めるDX推進企業なんだ!」という意識が芽生え、DXへの取り組みに前向きな雰囲気が生まれます。
- 第三者の視点での評価が得られる! DX認定のプロセスは、自社のDX推進状況を客観的に見つめ直す良い機会になります。
DX認定の申請って難しくないの?
正直にお話しすると、申請のガイドラインはページが多く、専門用語も含まれています。そのため、「全部自分でやるのは大変そう…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、ご安心ください!ここで頼りになるのが、地域のITベンダーさんやコンサルタント(特にITコーディネーター)といった「支援機関」です。
ITコーディネーターは、企業のIT活用や経営戦略策定を支援する専門家で、実はDX認定のプロセス(手順や考え方)と、彼らが普段行っている支援のプロセスがとてもよく似ています。
つまり、ITコーディネーターはDX認定の申請をサポートするためのノウハウを持っているのです。彼らのサポートを受ければ、「何をどう書けばいいか分からない」といった悩みも解決し、着実に申請を進めることができます。
DX認定を取得すると、具体的にどんなメリットがあるの?
DX認定を取得すると、以下のようなメリットが得られる可能性があります。
- DX認定ロゴマーク を利用できる。
- 一部の金融機関からの融資 など、金融支援措置を受けやすくなる場合がある。
- 人材開発支援助成金 の対象となる場合がある。
- 経済産業省の「DXセレクション」などの表彰制度に応募できるようになる。
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金) など、一部の補助金で加点措置が受けられる場合がある。
- 企業の信頼性向上 につながり、特に近年は採用活動においても有利に働く 事例が出てきています(健康経営認定と合わせて学生に安心感を与える要因になるという声も)。
そして何より、申請プロセスを通じて、自社の経営とITの現状を見つめ直し、将来のDX戦略を明確にできること自体が大きな価値となります。
まずは何から始めればいいの?(支援機関との連携)
DX認定を目指す第一歩は、必ずしも難しいことから始める必要はありません。
- まずは自社の現状を把握する。
- 「こうなりたい」という将来の姿(経営ビジョン)をぼんやりとでも考えてみる。
- そして、信頼できる地域の支援機関(金融機関、ITベンダー、ITコーディネーターなど)に相談してみる。
彼らは、あなたの会社の状況に合わせて、DX認定の取得を一つのマイルストーン(中間目標)として設定し、具体的な計画作りから申請まで、二人三脚で伴走してくれます。特にITコーディネーターは、あなたの経営ビジョンとIT戦略を結びつけ、DX推進の具体的なステップを示すことを得意としています。
まとめ
DX認定は、「DXができている企業」ではなく、「DXに取り組む準備ができた企業」が取得できる国の制度です。
「難しそう」「成果が見えない」といったDX推進の壁にぶつかった時、経営者のやる気を再燃させ、社内外にDXへの本気度を示すための強力なツールとなります。
決して一人で抱え込まず、ぜひ地域の支援機関、特にITコーディネーターの力を借りてみてください。彼らと共に、DX認定という目標を目指すプロセスを通じて、あなたの会社の未来をさらに明るく、強くしていきましょう!
【参考資料】当記事はITコーディネータ協会公式YouTubeチャネルの「2025/5/16開催「スプリングWEBカンファレンス」-前編-」動画を基に作成しました。
「スプリングWEBカンファレンス」の前編の概要
この動画は、2025年5月16日に開催された「スプリングWEBカンファレンス」の前編より、中小企業のDX推進に役立つ講演パートを抜粋したものです1。ITコーディネータ協会(ITCA)が主催し、経済産業省、情報処理推進機構(IPA)の共催・後援のもと開催されました1。本カンファレンスは「デジタル経営を支える中小企業支援機関のために」と題し、中小企業支援を推進する皆様のお役に立つ講演をお届けすることを目的としています。
本動画では、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 地域情報化人材育成推進室長 デジタル高度化推進室長の川崎 幸雪典様と、ITコーディネータ協会理事 ITCUBE理事の安藤 U様にご講演いただきます。
【講演1】企業DX推進政策の全体像 DX支援拡大に向けた支援機関の連携(経済産業省 川崎 幸雪典様)
川崎様からは、国の企業DX推進施策の全体像についてお話しいただきます2。まず、日本の現状として、デジタル投資額が横ばいであることや、国際競争力ランキング、特にデジタル技術・スキル分野での課題が示されます24。このような状況を踏まえ、中小企業に焦点を当てたDXの取り組み状況や、DX推進の課題(人材、資金、成果不明、何から始めるか不明など)が説明されます。
次に、経済産業省が提供するDX推進施策の全体像が解説されます56。これには、経営者が企業価値向上のために実践すべき事項をまとめたバイブルのような「デジタルガバナンスコード3.0」56、自社のDX取り組み状況をチェックできる自己診断指標である「DX推進指標」6、そしてDXに取り組む準備ができている企業を国が認定する「DX認定制度」7 などが含まれます。中小企業向けの「DXセレクション」という表彰制度についても紹介され、受賞企業の事例が挙げられます8。
DX推進のためには、中小企業単独での取り組みは難しいため、支援機関を通じた支援が有効であると述べられます89。DX支援ガイダンスにおける支援機関(地域金融機関、地域ITベンダー、ITコンサルタントなど)の役割や、連携の重要性、連携によるメリット(弱み・強みの相互補完、情報共有、共同での課題解決)が強調されます8…。地域DX推進ラボの役割についても触れられます。
また、DX支援人材の育成の重要性についても言及され、実践的なスキル習得にはケーススタディやフィールドワークが有効であり、ITコーディネータの資格制度がこれを学ぶのに適していることが述べられます1011。最後に、DXを通じた本業課題解決のプロセスとして、現状把握からあるべき姿の設定、段階的なシナリオ策定、DX認定の活用、伴走支援による継続的な取り組みの重要性が示されます。
【講演2】中小企業へのDX支援事例(ITコーディネータ協会理事 安藤 U様)
安藤様からは、DX認定支援の現場のリアルと、支援側が工夫したことについてお話しいただきます3。特に、DX認定制度が現場でどのように活用されているかが具体的な事例を通して解説されます。
DX推進において、中小企業経営者が直面するリアルな声として、「やらなきゃいけないのは分かっているが社内は青いムード」「ツールは導入したが成果が見えない」「日々忙しく、やっても成果がすぐに出ないためプロジェクトが立ち消えしがち」といった課題が挙げられます12。このような状況に対し、DX認定制度を「士気を高める起爆剤」として活用することが提案されます1213。DX認定取得というマイルストーンを設定することで、第三者からの後押し(国からのお墨付き)が得られ、達成感や安心感が生まれることで、再び前向きな雰囲気が醸成されるといいます。これは支援側にとっても、成果を目に見える形で示せる、支援の仕立てが制度として用意されている、そして何よりも焦らず腰を据えて本質に向き合えるという大きなメリットがあるとのことです。
DX認定の申請プロセスにはハードル(ページ数の多さ、専門用語、何を書けばいいか分からない)がありますが、ITコーディネータが持つ「プロセスガイドライン(PGL)」というバイブルの考え方と、DX認定の基準である「デジタルガバナンスコード」が高い親和性があるため、ITコーディネータにとっては普段の支援に少しアレンジを加えることで対応可能であると説明されます。具体的に、デジタルガバナンスコードの5つの柱(経営ビジョン・ビジネスモデル、戦略、戦略推進、成果指標、ステークホルダーとの対話)とPGLの項目が非常によく似ていることが示されます。
最後に、愛知県の介護業者様のDX認定支援事例が紹介されます15。この事例は、DXが進んでいない業界で、社内にIT専門人材がいないという企業が、経営者の強い危機感から半年でDX認定を取得したものです。支援のプロセス(事前準備、キックオフ、申請書類作成・提出)と、各ステップで直面した問題や工夫(認定基準は「取り組んでいる」こと、3人体制での負荷軽減、簡易自己診断フォーマットの活用、DX構想書による見える化、AI活用など)が詳しく解説されます。この事例を通じて、DX認定取得がDXフードの醸成や推進室の設置につながり、DX推進が加速した様子が示されます。
この動画を通して、中小企業におけるDX推進、特にDX認定制度の活用方法、そしてITコーディネータをはじめとする支援機関がどのように貢献できるかについての理解を深めることができます。
ぜひ、中小企業の経営者様、DX担当者様、そして中小企業を支援されるITコーディネータや各種支援機関の皆様にご覧いただき、皆様のDX推進、DX支援にご活用いただければ幸いです。