2025年6月16日、ITコーディネータ協会 (ITCA) 会長の野村真実氏が「2025年度のITCA基本戦略」を発表しました。この講演では、ITCAの目指す未来、新たな資格制度、そしてITコーディネータ(ITC)が果たすべき役割について、重要な方針が示されました。中小企業のデジタル変革を支援するITCAの取り組みを、一緒に見ていきましょう!
ITCAが目指す「物心両面の幸福」と2030年ビジョン
ITCAの経営理念は、「ITコーディネータ制度に関わるすべての方々の物心両面における幸福を追求し、日本の中小企業・団体が、ITを経営の力として活かし、発展することに貢献する」ことです。
そして、ITCAのビジョンは「2030年、全国各地でITCの活躍があり、その存在が多くのステークホルダーに賞賛され、ITCは1万人となっている」こと。2023年度から2024年度への伸び率(約4.9%)を6年間維持できれば、2030年度末には1万人達成を見込んでいます。
このビジョン達成のために、ITCAは「ITCA GROWTH LOOP」という成長戦略を描いています。これは、ITCの品質と生産性を向上させ、ユーザーのNPS(顧客推奨度)を高めることでユーザー増加と認知度アップを図り、最終的に新規ITCの増加、資格者増加、そしてITCA全体の生産性向上につなげるという好循環です。
提言:変化の時代を生き抜くための3つのポイント
講演では、デジタル立国ジャパン2025に向けたITCAからの提言もなされました。
- VUCA時代の地方創生:「ビジョンなき地方創生からの脱却」
- 問題が多様化し、課題が変わりやすい現代において、形式的・単発的な対策ではなく、ビジョンから逆算する「ビジョンからのバックキャスト」が重要。
- 「わからなさに耐える力」であるネガティヴ・ケイパビリティを発揮するビジョナリーリーダーの育成が求められています。
- AI時代のリーダー像
- AIは優秀なパートナーですが、リーダーシップは発揮しません。
- 人間には、非認知能力(品格、人格)が認知能力(高学歴)よりも重要になる場面が多くなる。
- 「頭は悪いが、ビンタが良い」(知識はないが、要領や段取りがうまい)というように、誰でも、いつでもチャレンジできるリーダー育成教育を学生時代から行うべきだと提言されています。
- 少しずつずっと良くなる「サイクルマネジメント」の導入
- ビジョンへのスパイラルアップを地域ごとに推進するため、経済産業省(METI)/情報処理推進機構(IPA)の「地域DX推進ラボ」などの活用が具体例として挙げられました。
- 主体となる自治体や地元組織のキーマン作りと支援体制の構築が不可欠です。
2025年度 戦略骨子:注目の新制度と連携強化
2025年度のITCAの具体的な戦略は多岐にわたります。特に注目すべきは以下の点です。
- ITCアソシエイト制度の6月開始。
- 新PGL(プロセスガイドライン)に合わせた新ケース研修と新試験のスタート。
- 経済産業省 (METI) との連携強化:
- スプリングWEBカンファレンス(約700名が参加)の実施。
- ケース研修のReスキル認定取得と厚生労働省「個人向け専門実践教育訓練給付金」の獲得。
- DX推進指標の見直し、IPA「人材プラットフォーム」構想への参画。
- 金融機関連絡会コミュニティの7月25日スタート。
- ITCスキルマップの見直し(経済産業省DSS-P準拠)とITC実務ガイド改訂。
- 生成AI研究会のスタート(生成AI活用ガイド作成など)。
- 学生(専門学校、大学生等)への広報強化。
- 25周年誌の発行と記念イベントの企画。
新たな挑戦!「ITCアソシエイト」制度が2025年6月スタート!
2025年度からの大きな目玉として、「ITCアソシエイト」という新たな資格制度が導入されます。
- 名称:ITCアソシエイト
- 資格概要:2025年6月より制度開始。ケース研修でITCプロセスやビジネスアーキテクト(BA)の基礎知識を学び、デジタル経営に関する課題解決の支援プロセスを理解している人材が対象です。ITCと連携して、中小企業のデジタル経営推進に貢献することが期待されます。
- 認定方法:新ケース研修(大学内カリキュラムも含む)の受講修了で登録可能となります。
- 特徴:登録料は2.2万円で、毎年の更新手続きは不要。有効登録期間はケース研修受講年度を含めた4年度間。さらに、登録期間中にITC試験に合格すると、ITC認定が可能(認定料無料)となります。
- 対象:主に支援機関の方や学生向けの資格と位置付けられています。
この制度は、個人のスキル情報蓄積やキャリア形成、アカデミアでの実践教育、学習サービス事業者によるリスキリング市場拡大、企業のデジタル人材育成・確保など、デジタル人材育成のエコシステム全体を活性化させる役割を担うと期待されています。
「デジタル経営」と「IT経営」の関係性、そして「PGL4.0」
講演では、「デジタル経営」と「IT経営」の関係性についても言及されました。
- IT経営 (PGL3.1):経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたITの利活用による経営変革を通じて、企業の健全で持続的な成長を導くもの。
- デジタル経営 (PGL4.0):デジタル社会を理解し、存在価値を考え、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するもの。
PGL4.0(プロセスガイドライン4.0)は、このデジタル経営を支援するための指針であり、以下の特徴があります。
- サイクルの概念を取り入れた反復型プロセス:環境変化に強い反復型のプロセスとサイクルアプローチを採用。デジタル経営成長サイクルと価値実現サイクルから構成されます。
- 企業の継続的成長を重視:ビジネスの成熟に加え、組織学習や人的資本経営によって企業の成長を図ります。
- 価値の創造と実現を全面に:デジタル経営の目標を「価値実現」とし、価値実現検証プロセスを新たに加えてその重要性を強調しています。
- 共通的な支援機能の重視:デジタル経営の各サイクル、プロセス、アクティビティに関して、共通的な支援機能(デジタル経営共通基盤CB)を提供します。
- 登場人物の役割を明確化:経営者、デジタル経営推進者、開発リーダー、運用リーダー、デジタル経営支援者などの役割が明示されています。
- デジタル経営を成功に導く10の基本原則。
特に、PGL4.0におけるサイクルは、「変化対応」「高速で戦略・開発・運用・検証を反復」「反復学習」を特徴とし、要件変化に強くスピード感のある経営と組織学習効果を高めることを目指しています. C1(事業の成長)とC2(組織学習・人の成長)の2つのサイクルが、企業の持続的な成長を促す考え方です。
なぜ今、「サイクルマネジメント」なのか?
激しい経営環境の変化の中で、従来のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルだけでは限界がある、というのがITCAの認識です。ITコーディネータに求められる視点も進化しています。
そこで提唱されているのが、「サイクルマネジメント」です。
これは、繰り返しの中で、進化・成熟する4次元のマネジメント手法であり、以下の概念を含みます。
- SPDLI (Strategy → Plan → Do → Learn → Innovate): AI時代に対応するプロセスマネジメントであり、変化を予測し、活用し、進化につなげる支援を目指します。
- OODAループ、デザイン思考、アジャイル思考、アップサイクル、バリューサイクル、ライフサイクルなど、様々なマネジメント手法を現場で組み合わせて確立させます。
AIをプロセスにどう組み込むか?「ハーベストループ」
AIの活用は、単なる「自動化」だけではありません。意思決定支援、予測、対話型の活用法が重要であり、業務プロセスにAIを織り込む支援の視点が求められます。
その活用例として、「ハーベストループ」が紹介されました。これは、自動化される作業プロセス、増大する最終価値、向上するUX(ユーザーエクスペリエンス)、蓄積されるデータ、活用するAI機能が相互に作用し、AIの精度向上と価値創造を促す循環モデルです。Amazonの成功例(低コスト構造、取引量、品揃え、低価格が顧客体験成長につながるループ)も示されました。
ITコーディネータとサイクルマネジメント
サイクルマネジメントは、経営者との対話に必要な「共通言語」として非常に重要です。ITコーディネータには、「再現性」のある支援が求められ、成熟度モデルとサイクル思考は非常に相性が良いとされています。成果を出す支援の本質は「循環」の設計にある、と締めくくられました。
2025年度は、ITCAにとって新たな挑戦の年となります。特に、「ITCアソシエイト制度」の開始は、より多くの人がデジタル経営支援の基礎を学び、ITCエコシステムに参加する大きなきっかけとなるでしょう。
この新しい戦略を通じて、ITCAが中小企業のデジタル変革と日本の活性化に大きく貢献していくことを期待しています!