その会議、ワクワクしますか?「正論」だけの世界から抜け出す方法
突然ですが、企画会議や打ち合わせの場で、こんな経験はありませんか?
「なるほど。確かにそう言われるとそれは正しいですね」
誰もが納得する「正論」ばかりが飛び交い、誰も反対しない。しかし、誰も心の底からワクワクしない。そんな安全なアイデアばかりが並び、結局何も新しいことが決まらないまま会議が終わってしまう…。
人の心を動かし、ビジネスを前進させる革新的な企画は、そんな「正論」だけの世界からは決して生まれません。
もしあなたが「いつもの議論から抜け出したい」「自分でも驚くようなアイデアを生み出したい」と感じているなら、この記事はあなたのためのものです。
今回は、AIの力を借りて凝り固まった常識を打ち破り、全く異なる世界の知恵を組み合わせることで、革新的なアイデアを生み出すための強力な技法をご紹介します。特別な才能や経験は不要です。正しい知識さえあれば、誰でもAIと共に創造の扉を開くことができます。
イノベーションの正体は「異質なものの新しい組み合わせ」
そもそも、革新的なアイデアはどのようにして生まれるのでしょうか?
「イノベーションの父」として知られる経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、その著書『経済発展の理論』の中で、イノベーションを「既存のものの新しい組み合わせ(新結合)」であると定義しました。
つまり、革新とは全くのゼロから何かを発明することではなく、すでにある「知恵A」と「知恵B」をいかに新しく組み合わせるか、ということなのです。そして、この「知恵A」と「知恵B」は、関係性が遠ければ遠いほど、ユニークで強力なアイデアが生まれやすいと言われています。
以前、「ランダムな単語」を強制的に結びつけるアイデア発想法をご紹介しましたが、それは冷蔵庫のあり合わせの食材で何が作れるかに挑戦するアドリブ料理のような面白さがありました。
しかし、今回ご紹介する技法は少し違います。例えるなら、一流のシェフが定番のカレーを革新するために、あえてフランス料理の技法を学びに行くようなイメージです。偶然に頼るのではなく、「この分野と組み合わせれば、きっと面白い化学反応が起きるはずだ」という戦略的な意図を持って、異質なものを取り入れに行く。それがこの技法の本質です。
この「異質なものの組み合わせ」が創造性を生むメカニズムは、思想家アーサー・ケストラーが提唱した**「ビソシエーション(異質連想)」**という概念で説明できます。普段は交わることのない2つの世界のルールや文脈を同時に考えることで、脳が刺激され、新たな視点や発想が生まれるのです。
とはいえ、この「適切な異質さ」を見つけ出す感覚は、経験を積まないと難しいもの。そこで、この熟練のプロセスをAIにショートカットしてもらうのが、今回の技法の最大の狙いです。
【実践編】AIに「常識外れの発想」をさせてみよう
それでは、実際にAIを使ってアイデア出しを実践してみましょう。
今回は、正論だけでは解決が難しい、人間関係の具体的な悩みをテーマにします。
お題:
「やる気も人柄も良い後輩なのだが、完璧主義のあまりいつも締め切りを破ってしまう。チーム全体に影響が出ているが、『締め切りを守れ』と正論で注意してもなかなか改善されない」
これは非常に難しい問題ですね。では、この課題をAIに投げかけてみましょう。今回はGoogleの「Gemini 2.5 Pro」を使用します。
プロンプト:
以下の課題の解決策について、全く異質な分野の要素を7つ強制的に組み合わせて、具体的なアイデアを考えてください。それぞれのアイデアがもたらす効果も説明してください。
【課題】
やる気も人柄も良い後輩なのだが、完璧主義のあまりいつも締め切りを破ってしまう。チーム全体に影響が出ているが、「締め切りを守れ」と正論で注意してもなかなか改善されない。
AIは、驚くほど多様な視点から7つのアイデアを提案してくれました。
- 【農業】×【タスク管理】:「間引きタスク管理法」
畑の作物をすべて完璧に育てようとすると、栄養が分散して結果的にすべてが中途半端になるように、タスクもすべてに100%の力を注ぐのではなく、重要度に応じて「間引く」必要があることを伝え、完璧主義の考え方を和らげる。 - 【美術(デッサン)】×【進捗報告】:「デッサンフェーズの導入」
細部を書き込む前の「下書き(デッサン)」段階で一度提出させる。資料なら骨子と見出しだけ、企画書なら箇条書きのアイデアだけ、といった具合に、極端に短い時間制限を設けて完成度を問わない。「とにかく全体像を見せて」と伝えることで、完璧を求める前の心理的ハードルを下げる。 - 【ビデオゲーム】×【目標設定】:「クエスト&経験値システム」
大きな仕事をラスボスと捉えるのではなく、複数の小さな「クエスト」に分解。各クエストに推奨レベルと経験値を設定し、簡単なものからクリアさせてレベルアップする感覚を共有する。 - 【物理学】×【作業開始支援】:「初速エネルギーの法則」
静止した物体が動き出すのに大きなエネルギーが必要なように、仕事の最初の15分だけ隣に座って一緒に作業を開始する。「まずこのタイトルだけ決めよう」と具体的な初動を共にすることで、動き出すためのエネルギーを与える。 - 【禅】×【価値観の共有】:「わびさびの価値観」
完璧なものだけでなく、不完全なものの中にある美しさや価値(わびさび)を説く。「80%の完成度でも締め切りを守ることで生まれる信頼」や「荒削りだからこそ次の改善点が見える」など、完璧でない状態をポジティブに捉え直す。 - 【医療】×【業務プロセス】:「タスク処方箋メソッド」
医師が問診するように後輩の仕事の進め方をヒアリングし、タスクの特性に合わせて具体的な作業手順(処方箋)を一緒に作成する。 - 【スポーツ(F1)】×【定期報告】:「ピットイン報告の義務化」
長時間の作業をF1レースに例え、一定時間ごとに「ピットイン(中間報告)」を義務付ける。進捗、課題、今後の計画を3分で簡潔に報告させ、完成度は一切問わない。
AIとの「壁打ち」でアイデアを磨き上げる
AIから多様なアイデアが出てきました。しかし、ここで終わりではありません。ここからが最も重要なプロセス、AIとの「壁打ち」です。
出てきたアイデアを吟味すると、「農業」や「禅」のように後輩の考え方を変えようとするアプローチは、時間がかかり、効果も不確実かもしれません。
一方で、「ビデオゲーム」の楽しさと、「スポーツ(F1)」の仕組みは、具体的で面白そうです。そこで、この2つを組み合わせるように、AIにさらに指示を出します。
追加プロンプト:
ありがとう。特に「ビデオゲーム」と「スポーツ」のアイデアが面白そうだと思いました。この2つの要素を組み合わせて、より具体的で実践的な仕組みとして提案してください。
すると、AIは次のような、より洗練されたアイデアを提案してくれました。
【AIからの提案】クエスト・グランプリ
大きな仕事を一つの「グランプリレース」と見立て、それをクリアするための具体的なルールを設定します。
- Step1:コース設定(クエスト分解)
後輩と一緒に仕事の全体像を把握し、レースの周回コースのように複数の小さな「クエスト」に分解する。 - Step2:レース開始(タスク着手)
最初のクエストから取り組みを開始する。 - Step3:ピットイン報告(中間報告)
各クエスト完了時、または一定時間ごとに「ピットイン」し、進捗を報告。経験値を獲得する。 - Step4:レベルアップと報酬(評価制度)
獲得した経験値によるレベルアップを、サブリーダーへの昇格など、実際の役職や評価に連動させる。これにより、ゲーム感覚で楽しみながら、着実にタスクをこなし、締め切りを守るスキルと実績を積むことができる。
このように、AIが出したアイデアと自分の直感を「壁打ち」のようにすり合わせることで、一人では思いつかなかった、具体的で実行可能性の高いアイデアへと昇華させていくことができるのです。
まとめ:AIはあなたの思考をジャンプさせる最高のパートナー
本日のポイントを3つにまとめます。
- イノベーションの正体は「異質なものの組み合わせ」である。
- AIに全く異質な要素を強制的に組み合わせさせ、常識を破壊する。
- この技法は、正論で解決できない人間が関わる複雑な課題にこそ有効である。
AIを使いこなす人とそうでない人の間には、今後、取り返しのつかないほどの差が生まれると言われています。しかし、特別な才能や経験がなくても、正しい知識を知っていれば、誰でもAIの力を引き出し、自らの未来を切り拓くことができます。
もしあなたが今、手詰まり感のある課題を抱えているのなら、AIに全く違う世界の知恵を借りてみてはいかがでしょうか。きっと、あなた自身も驚くような、常識を超えた解決策への扉が開くはずです。
参考プロンプト
〈 課題や目的を記入 〉
この問題の解決に、まったく異質な要素を7つあげ、それぞれを取り入れた案を考えてください。それにはどのような効果がありますか?
(コピペして〈〉の中身をあなたのテーマに変えるだけで使えます)
参考書籍
この記事で紹介した内容は、書籍『AIを使って考えるための全技術』で紹介されている50以上のテクニックのうちの1つです。もっとずるい思考法を知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
👉『AIを使って考えるための全技術』
また、壁打ちについては、『AI壁打ち入門』もおススメです!