中小企業の生産性向上を考えた時に、ひとつの大きな「足かせ」ともいえる「取引先とのFAXによる非効率な受発注業務」を解決するためのものです。
ITコーディネータ協会は、この問題を解決しないと中小企業の真の生産性向上は実現できないと考え、長年にわたって経済産業省・中小企業庁、この問題に高い関心を持つ企業、および中小企業向けクラウドサービスベンダーの協力を得て、「中小企業共通EDI」を開発してきたものです。この中小企業共通EDIのその特徴と、企業へ導入するためのポイントをご紹介し中小企業共通EDIの活用をおススメするものです。
では、早速、生産性向上のための第一歩を踏み出しましょう。
中小企業の受発注業務の現状
中小企業の企業内における「受発注業務」の現状
中小企業の企業内における「受発注業務」の現状は、上図に示すように、受注情報は、その殆どが紙やFAXで顧客から届きます。また、発注も、自社の基幹システムから発注書を印刷して、FAX等で相手企業へ送信しています。この結果、せっかく基幹業務システムが整備されている会社でも、受注情報を改めて手入力することが必要になります。
そこでは入力ミスも多く、作業の手戻りにつながっています。また、入力ミスはその場では気づきにくく、お客様にご迷惑をおかけする場合もあります。そして、社内には、取引先ごとに異なる様式の書類やFAXがあふれかえっていますし、紙の保管は大変な手間を必要とします。
中小企業の企業間における「受発注業務」の現状
企業間における受発注業務は、社内で作成したデジタルデータをFAXや紙などアナログなデータに変換して、相互に交換し、また手入力などでデジタルデータに戻していることになります。
これは、本当の意味でのICTの活用とは言えない状況です。
人手不足を「業務改革」で乗り越える
労働力不足に加え、時間外労働の上限規制など新たな制度が導入され、中小企業には労働生産性向上が必須となります。
また、2023年10月からはいわゆる「インボイス制度」が導入され、今よりも厳格な「適格請求書」方式による会計処理がすべての業種を対象に実施され、業務量はさらに増大します。
一方、2024年1月にはISDNによるデジタル通信モードサービスが終了します。これにより、従来のEDIでも、大幅な見直しを迫られることがあります。
EDIの歴史(1)個別EDI
ここで、少し、EDIの歴史について見てみましょう。
【1980年代】個別EDI
- この時代は、通信回線や端末など運用コストが高かったため、利用は一部の大企業同士に限られた。
- 個別EDIは、大手メーカなどが個別にEDIを開発し、自社の系列間で進められました(専用線、1:1)
EDI、いわゆる電子商取引への取り組みは80年代頃から始まっていますが、当時は通信回線や機器が高価であり、費用対効果の観点から利用は一部大企業に限られました。
EDIの歴史(2)業界EDI
【1985~90年代】業界EDI(業界VAN)
業界標準EDI:業界ごとにEDIの標準化がすすめられた(VANサービスの登場、専用線、N:N)
メリット:1つの仕組みで複数の企業間取引に利用可能、発注・受注に利用可能
デメリット:高額な専用線ソフトが必要等、高コスト ※一部はインターネットEDIにより改善
デメリット:異なる業界からの受注には複数の仕組みが必要=業界の壁
1985年頃から普及してきたVANサービスを利用し、業界ごとの標準サービスが実現しました。しかし、異なる業界とはつながらず、コストも高いものでした。
EDIの歴史(3)Web-EDI
【2000年代】Web-EDI
Web-EDI インターネットの普及によりブラウザのみで利用可能(インターネット、1:N)
メリット:専用端末、専用ソフトが不要。受注者は原則ブラウザのみで利用可能
デメリット:発注者が提供する個別EDIであり、多画面問題が発生
その後、インターネットの普及に合わせて2000年頃より、発注企業が「Web-EDI」を開発し導入を始めました。しかし、この仕組みは、受注企業から見ると、発注企業ごとに画面が異なる「多画面問題」となり、使い勝手の良くないものでした。
このようにこれまでのEDIは、中小企業にとってみると、高コストで、使い勝手にも課題があり、敷居が高かったと言えます。
3形態(業界EDI・Web-EDI・FAX)が混在する日本のEDI
- 結果として企業間取引は大手企業中心の業界EDI、中堅企業中心のWeb-EDI、その他のFAXとの3層に分離
- 大手企業も中小企業との受発注では膨大なFAX取引が残されている(FAX内容を打ち込み直す子会社をゆうしているケースも)
●1st.2004~2005
次世代電子商取引推進協議会(ECOM)の調査研究で共通EDI方式を提案
→ 共通化のための専用ソフトの各社への導入などコスト面で見送り
●2nd.2009~2011
経産省ビジネスインフラ事業で次世代EDI推進協議会(JEDIC)立上げ
→ 業界EDI間の連携に国連CEFACT共通EDI辞書の活用を提唱
→ 共通部分は定義したが業界固有部分が定められず実用化に至らず
●3rd.2012~
学識経験者や企業・団体12者でサプライチェーン情報基盤研究会(SIPS)立上げ
→ FAX取引をデジタル化するEDI仕様を共通EDI辞書を利用して策定
→ 2016年中企庁次世代企業間データ連携調査事業(ITCA受託)
EDIの歴史から得られた教訓を踏まえて、業界や企業規模の大小を問わず活用可能なEDIを目指して、2004年頃から標準化が始まりました。
◆第1ラウンドは、2004年から2005年にかけてでしたが、この時は開発コストの観点から「標準化」は見送りとなりました。
◆第2ラウンドは、2009年から2011年にかけて、経産省主導で取組みがおこなわれました。この時に、国連CEFACTを採用することが提唱され、共通部分の定義まではできましたが、業界固有部分を定めることができず、時間切れとなりました。
◆第3ラウンドは、2012年から、EDIの課題に高い問題意識を持ち続けてきた学識経験者や企業・団体12者で研究会が立ち上がりました。これまでの検討を踏まえて、2016年に中小企業庁が調査事業を立ち上げ、ITコーディネータ協会が中心となって、その事業を推進しました。その結果、2018年3月に「中小企業共通EDI標準仕様」が策定されました。
中小企業共通EDIのコンセプトと3つの特徴
中小企業共通EDIの基本コンセプトは、「簡単・便利で、安価に、誰とでもすぐにつながる」EDIです。
この基本コンセプトを実現するために、以下の3つの特徴を備えています。
【特徴】
- 中小企業の受発注において必要十分な情報項目を仕様化
- 導入のための準備が簡素(サーバは不要)
- 業務アプリを問わない連携機能
※中小企業の受発注において必要かつ十分な情報項目を仕様化し、導入のための準備が簡素で安価に済むようにしました。また、中小企業で利用されている業務アプリやクラウドサービスを少しの手間で共通EDI対応にできます。
それでは、それぞれの特徴を具体的に見ていきましょう。
中小企業共通EDIの特徴その1
特徴1:中小企業の受発注において必要十分な情報項目を仕様化
- 中小企業共通EDIは、実際の中小企業の受発注で使われているデータ項目を調査し、中小企業のEDIにおいて必要にして十分な情報項目に絞り込んでいます
- 情報項目は世界標準の国連CEFACTに準拠しており、今後も安心してご利用いただける汎用性を備えています
- これにより、受発注企業間での情報項目の擦り合わせ時間を最小限になり、導入しやすいEDIができました
※特徴の1つ目としては、「中小企業共通EDIは、実際の中小企業の受発注で使われているデータ項目を調査し、中小企業のEDIにおいて必要にして十分な情報項目に絞り込んでいること」です。そして、これらの情報項目は世界標準の国連CEFACTに準拠しており、今後も安心してご利用いただける汎用性を備えています。これにより、受発注企業間での情報項目の擦り合わせ時間を最小限にして、導入しやすいEDIができています。
中小企業共通EDIの特徴その2
特徴2:導入のための準備が簡素(サーバは不要)
- 中小企業共通EDIは、受発注企業間を共通EDIプロバイダを介して接続するため、専用サーバや特殊な通信ソフトを準備することなく導入できるサービスです
- これにより、導入のための準備が簡素で済み、安価に導入できるEDIができました。
※特徴の2つ目として、中小企業共通EDIは、受発注企業間を共通EDIプロバイダを介して接続するため、専用サーバや特殊な通信ソフトを準備することなく導入できるサービスです。これにより、導入のための準備が簡素で済み、安価に導入できるEDIとなっています。
中小企業共通EDIの特徴その3
特徴3:業務アプリを問わない連携機能
3つ目の特徴は、「業務アプリを問わない連携機能を持っていること」です。
- 既に、中小企業で利用されている多くの業務アプリに対しては、少しのコストでEDI導入可能な業務アプリに変更できます
- システム未導入の中小企業においてはEDI機能搭載の業務アプリを導入することで、直ちに利用できます
- これにより、受発注企業間で異なるベンダーの業務アプリを使用していても、共通EDIに対応していれば、連携が可能になります
既に、中小企業で利用されている多くの業務アプリに対しては、少しのコストでEDI導入可能な業務アプリに変更できます。システム未導入の中小企業においてはEDI機能搭載の業務アプリを導入することで、直ちに利用できます。これにより、受発注企業間で異なるベンダーの業務アプリを使用していても、共通EDIに対応していれば、連携が可能になります。
国の事業で受発注業務時間の削減効果を確認
この表は、平成28年度の中企庁の「次世代企業間データ連携調査事業」にて確認された、実際の導入効果です。
業種・業態が異なり、また地域も異なる12のプロジェクトで、受発注業務時間の削減効果を計測しました。
その結果、どの業種においても、発注企業、受注企業とも平均で5割程度の業務時間削減効果が確認されました。
中小企業共通EDI導入事例 (株)ササキ様
【会社概要】
本社所在地:山梨県韮崎市
事業内容:ワイヤーハーネス加工、電子機器組立
資本金:5,000万円
これは、実際に中小企業共通EDIを導入された山梨県のワイヤーハーネスの製造・販売会社である株式会社ササキ様の導入事例です。
一部、メールで注文書を送っていましたが、大半はFAXで注文書を送っていました。そのため、納期回答もFAXで戻って来ていましたので、自社の基幹システムには手入力で行っていました。
また、納品書も紙で送られてきますので、手入力で検収結果を入力していました。
【中小企業共通EDI導入後】
「共通EDI」を導入した結果、次のような効果がありました。
①基幹システムで作成した注文書を、EDIにより発注先へ送れるので、印刷・FAXの手間が削減された。
②納期の回答がサプライヤからEDI経由で帰ってくるため、自社の基幹システムへの入力の手間が削減された。
③受入検収について、EDIと連携したバーコード付き指定納品書の利用により、作業時間が1/3程度に削減されたのが最も大きな効果です。
その他、業務効率化以外の効果として「入力ミスや転記ミスが大きく削減された」と回答されています。
中小企業共通EDIを導入する為に必要な2つの事
中小企業共通EDIを始めとする「商流EDI」と「金融EDI(ZEDI)」を連携する事で更に大きな効果
2018年12月に銀行界のシステムインフラとして「金融EDI(ZEDI)」が立ち上がりました。
ZEDIは、振込情報として請求書番号等の商取引に関する情報を添付することができるので、売掛金の消込作業の効率化、経理事務負担の軽減が期待されます。
受発注業務が中小企業EDIによりデジタル化され、お金の流れもZEDIを利用すれば、中小企業の生産性向上に大きく寄与することになります。
国の事業で受発注業務時間の削減効果を確認
平成29年度補正予算 中小企業・小規模事業者決済情報管理支援事業
平成29年度中企庁事業では、商流EDIと金融EDI連携の実証検証が行われ、その効果が評価されました。
以上が、「中小企業共通EDI」と「金融EDI」の概要説明です。
中小企業の生産性向上のためには、現状の紙・FAXで行っている受発注業務をこの「中小企業共通EDI」に変えて行くことが必要です。
この改革は中小企業だけではなく、大企業を含むサプライチェーン全体にも大きな成果をもたらします。
中小企業のデジタル・トランスフォーメーションは、まさに、ここからスタートします。
企業の受発注業務改革に取り組みたい方へ
@探究会では、下記のようなことを企画しております。
- 実際の共通EDI対応製品・サービスを使ったワークショップ
- 具体的な共通EDI導入事例を基にしたケーススタディにより、実践的なスキル・ノウハウを紹介します。
>中小企業共通EDIや金融EDI(ZEDI)をさらに詳しく知りたい方は、下記よりお問合せ下さい。